英語のスピーチをするには(上級編)〜コンテストで勝利を掴め!〜
英語のスピーチをするには(上級編)
初級編では、教科書のテンプレートから一歩離れ、聞き手の頭の中に情景を浮かべる導入や、体験を核にする考え方を紹介しました。
上級編では、そこからさらに踏み込みます。単なる手法(How to)だけでなく、細部に至るまでのこだわり、研鑽、そして一人の表現者としてどう在るかを考えなければなりません。
目指すのは単なるプレゼンではなく、「心を掴むスピーチ」。
有名大学の卒業式で総代がするようなスピーチ、仕事で商談を勝ち取るスピーチ、映画の主役が物語の最後を締めくくるスピーチ、来賓としてのスピーチ、そしてコンテストで審査員を魅了するスピーチです。
英語スピーチコンテストで優勝を狙うには
何を目指すにしても、良いスピーチには共通点があります。ここでは「学生がコンテストで優勝するためのスピーチ」ということを軸に、「良いスピーチ」とは何か、どうやって作ればよいのかをご紹介します。
「コンテストで優勝するために」と一口で言ってしまうと、少し誤解を招くかもしれません。
「審査員受けを狙う小手先」のように聞こえてしまうからです。
しかし、私は「試験に出るから勉強する」ような考えを行動のエネルギーにするのには基本的に反対です。好みや傾向といった変数に大きく振り回されるような力ではなく、より普遍的な力で勝負したい。そう考えています。
スピーチの型の確認
自身のスピーチの型について、まずは考えてみてください。
スピーチの型には主に
- 情報提供型
- 説得型
- エンターテイメント型
の3つに分かれます。
そして、高度なスピーチほど、軸をどれか一つにしつつも、それ以外の要素を複合的に持っている持っています。
例えば、キング牧師の有名な”I Have a Dream.”のスピーチは説得型スピーチです。しかし、大衆が思わず、”Yeah!”(そうだ!)と声をあげたくなるほどの熱量があり、巧みな言葉のリズムによって、気がつけば大衆もスピーチに参加してしているという状態を生み出していました。これはエンターテイメントの要素がありますし、法で認められた差別の歴史を振り返り、現実にそんなことがあったという情報提供の側面も少し持っています。 どの型を軸にするかは、そのスピーチが「弁論」「ビジネス」「演説」「コメディパフォーマンス」など、どんなものかによってある程度導かれるものですが、自身の、または演じたいキャラクターに合わせつつ、どの要素のボリュームが足りないのか考えてみると良いと思います。
テーマ選びと構成で勝負
初級編でも触れた通り、「社会性のあるテーマ」を追い求めるあまり、専門家が言いそうなことに終始してしまうことは避け、スピーチの核である 個人的な体験を起点にしましょう。
社会問題を語ることが悪いのではありません。ただし、中高生が“専門家”のように話してしまうと、聞き手にとっては内容が空を切っているように聞こえ距離を感じます。
そもそも、インターネットに書いてある情報で始まり、それで終わってしまっては、オーディエンスの前に立つ意味がありません。聞き手の皆さんにも持ち帰れる 普遍的な学び が必要なのです。
皆さんの体験は皆さん独自のものです。しかし、その中には共感できる感情や感覚があります。似たような失敗をした人もいるでしょうし、スピーカーである自分の過去と共通の悩みを抱えながら話を聞いてくれる人がいるかもしれません。
体験を**「入口」にして、聞き手の人生にもつながる問いへ広げます。
そういった体験や悩み、問いを聞き手と共有し、「今、何に取り組んでいるのか」を書いていくことで、ご自身の何気ないエピソードは社会性のある内容**に進化していきます。
上級スピーチらしい内容にするために
しかし、ただ共感を生む体験を述べ考えをまとめただけでは、上級者のスピーチとは言えません。その体験を元に導き出される答えや考え方はどんな事実やデータに裏付けられているか調査し、その調査内容(可能であれば調査方法も)、そして結果とソースについてもしっかりスピーチの中で言及していきます。
私自身は、スピーチにおいては全ての発言にエビデンスがある必要はないと思います。ですが、「サンプル数1」という印象を抱かれてはオーディエンス関心はスピーチから離れてしまいます。説得力のある客観的なデータには言及しましょう。
タイトルで勝負
コンテストでは、タイトルがあらかじめプログラムに印字され、スピーチの前に紹介されます。
このとき理想は、
「トピックは分かりそうだが、どんなスピーチかは聞いてみるまで分からない」
そんなタイトルです。最後まで悩みながら決めましょう。
コンテストに限らず、良いタイトルができたら、スピーチの前に
「こんなタイトルをつけちゃいました」
と言いさえすれば、タイトルも大きな役割を担うことができます。
引用(Quote)を用いる
専門家が自身の専門分野について話す際でさえ、他の専門家の引用は非常に多く用いられます。その方が客観性が増すからです。
しかし、多用は禁物です。自分のスピーチが引用に食われてしまいます。それを避けるために、次のことに注意しましょう。
- 引用は1〜2回
(3分のスピーチでは1回、5〜6分のスピーチでは2回) - 前半と後半のどちらか、または両方で使う
そして、その引用がどんな意味を持っているのかを自分で説明する - 可能ならConclusion(結論)で“初出”の引用は避ける
ただし例外として、途中で用いた引用を最後にもう一度持ってくると、伏線がきれいに回収される心地よさがあります。
Steve Jobs の “Stay hungry; stay foolish.” は良い例です。彼は、スピーチのまとめに入る前に学生時代に愛読されていた雑誌に掲載されていた言葉を好きになり、それにまつわるエピソードを話しました。その上で、聴衆にも同じ言葉を送るというスタイルでスピーチを終えました。
あくまでスピーチの主役はご自身であり、引用ではないということをお忘れなく。
ユーモア
ユーモアは「温度」を作る
会場の空気が硬いと、内容が良くても損をします。だからこそ、上級者は冒頭20〜30秒で“温度”を上げます。
無理に笑わせることではありません。小さくてもいいので、会場が息をしやすくなる一言を用意します。聞き手に「この人の話をもっと聞きたい」と思ってもらいましょう。
ユーモアのある言葉が思いつかない場合はAIで案を出すのも良い方法です。
ただしそのまま使うと、どこか退屈な印象を与えてしまうかもしれません。
「面白いけど70点」がAIが考える文章です。必ず自分の言葉で編集しましょう。
発音・イントネーション・スピードと「体」が噛み合っているか
初級編でも触れた通り、発音を知っていることとできることは違います。
上級者の練習は、暗記ではなく一致です。どれほど完璧に暗唱していても、イントネーションや間、強弱、視線や体の動きが内容に噛み合ってなければ、
空を切るようなスピーチになります。
スピーチは普通の会話とは異なる性質を持っています。普通の会話とは違う壇上でのパフォーマンスであることは意識してください。
特に、文章の構成上重要な動詞や数字が比較的弱く、短くなってしまわないようには注意すべきと感じています。
しかし、オーバーな変化は控えなければなりません。、
スピーチでのオーバーな変化とは主に、
1. 感情を込めすぎる
2. ピッチの変化が大きすぎる
の2つが挙げられます。
感情によって、多少スピードやトーンが変わるのは自然なことだと思いますが、舞台劇のように感情を込めてしまうのは、安っぽくなるリスクがどうしてもあります。(そういうスピーチが好きな人もいますが、おすすめはできません。)
高低差が大きすぎる、特に極端な高音から低音になると、聞き取りにくくなってしまいますので注意しましょう。
発音の改善
- 自分の声を録音する
- 理想の音(モデル)と聴き比べる
- ずれを見つけて修正する
- もう一度録音する
この繰り返しで、発音は確実に上がります。
自分の声をチェックすることにつきましては初級編でも触れました。上級編では、その解像度を上げて、具体的に何に注目したら良いのかについてお伝えしたいと思います。
- 音節の数
- 母音の種類
- ストレス(強制)の位置
- 音がセンスグループにわれているか
私は音節の数がずれるということは、本来完全な七五調の俳句や川柳を字足らずや字余りにしてしまうこと程の違和感があります。
しかし、ほぼ全ての文字に母音を含む日本人は、英語を話す時、音節を増やしてしまいがちなのです。
textbookのtext をテ・キ・ス・トと1音ずつ発音すると、この部分だけで4音節になります。しかし英語では1音節で綴りで言うと “e”の部分のみです。
母音の種類の確認と、日本語の母音との類似点と相違点を意識する。
例えば、日本語では 「ア」と発音されるものも、英語では[ə](シュワ)と呼ばれる母音で、「ア」と「ウ」の中間のような音ですから、区別して発音できているかをチェックします。
また、「イ」の音も日本語は口を横に広げる発音に対して、英語ではあまり広げません。区別しなくても伝えることにおいて支障はありませんが、より洗練されたスピーチを目指すには着目して損はありません。
矯正位置は、日常生活において多少ずれることは、気に留めることもほとんどないことかと思いますが、スピーチとなれば正しい位置に強勢音があるのか確認すべきです。
最後に、センスグループと呼ばれる文章中にある意味のまとまりです。感覚としては、文節に近いものがあります。
例 environmentally friendly (環境にやさしい)などです。
センスグループの中で音が途切れると、聞き手にとって意味が捉えにくくなります。逆に文がセンスグループを意識させないほどに区切りやイントネーション・リズムに変化がないものも、意味をとらえにくくなります。感覚としては、ひらがなだけで構成される文を読まされるものに近いと思います。
「にわにはにわにわとりがいます。」と書かれたものより、「庭には二羽にわとりがいます。」とした方が良い。そういうことかなと思います。
ご自身の英語の音を録音して聞くことで自身の発音を客観的に分析しやすくなるので、上級者を目指すのであれば必須と言っても過言ではありません。
これらの注意点とともに、以下を注意することで上級者への階段を着実に登ることができます。
- 強調したい語で声が上がる(やりすぎない程度に)
- 間が入る(4〜5秒程度の大胆な間も効果的です)
- 目元の表情が変わる
- ジェスチャーが**強勢(stress)**と一致する
音・表情・動きが一つのリズムになってくると、スピーチ全体が「説得」ではなく**「表現」**になります。
また、アイコンタクト・ジェスチャーを指導していて、一番気を抜けない部分の一つが、実際の会場にいるオーディエンスに対して、奥行きのある(立体的な)発表ができているか、動き出すタイミングは英語のリズムと一致しているかということです。
アイコンタクト、ジェスチャー、音声の強弱も意識して練習してきた。それでもまだ何かが足りない気がする。そう感じた経験者も少なからずいるはずです。
その正体は目元かもしれません。
- 目の開き方は英語のリズム・内容に応じて変化しているか
- 強調点や感情が目元に出ているか
そういった細部までチェックして練習します。
ただし、これもあくまで自然な範囲を出ないようにしてください。
勝負に運はつきもの。でも、運を引き寄せる練習はできる
スピーチには、審査員の好みや会場の空気など、**「運」**の要素があります。これは否定できません。
しかし、本番までに準備をし、本番でできる「運の掴み方」はあります。上級者は、本番で「実力を出す」だけではありません。会場で最適解を探して当てにいきます。
例えば
- 会場の広さ
- マイクの効き
- 反響
- どこで頷きが起きているか
- オーディエンス(審査員)の集中力が続いているか
これらを見て、声量、間、視線の置き方を微調整します。
大げさな演出は不要です。しかし、こういった意識は会場の空気を支配するのに欠かせない要素です。
持っているカードで戦う:発表順すら武器にする
発表順は選べません。だからこそ、
- 最初の方:コンテスト全体の基準になる。ならば、声量・ジェスチャーの強弱のバランスを考えて「強」も「弱」も両方やる。その結果、ライバルの武器を「標準の範囲内」にする。
- 最後の方:会場の疲れを読む。緩急と間で、空気を切り替える
などの立ち回りができると強いのです。
具体的にどんな立ち回りが考えられるのか
私自身、高校3年生のときに出場したコンテストで、「立ち回り」の重要性を実感しました。当日、次のことを考え壇上に立ちました。
- 自分の発表順は真ん中より少し後ろ
- 会場は詰めて100人程度が座れる
- マイクはあるが、これまでの発表者は発声が控えめで、一番後ろまでは声が聞こえない
- これまでで一番良かったスピーカーの質疑応答があっさりしすぎていた
これらの状況から、私は当日、壇上に立ってすぐマイクをどけ、両腕を大きく振ってバイバイしました。
※ルール違反にならないことは確認はしました。
このとき会場から少し笑い声が聞こえ、作戦は成功したと言えます。
次に発声です。応援に来てくれていた母には一番後ろに座って聞いてもらっていましたが、自分の声がどの程度の部屋までなら響くかは、高校3年生にもなれば分かります。問題なく後ろまで届けることができました。
最後に質疑応答です。高校生のコンテストでは珍しくないと思いますが、私の出場した大会では質疑に4割分の配点があり、1点も無駄にすることができませんでした。
それまで私にとって一番の脅威だった発表者の質疑は、質問自体もシンプルで、答えもシンプルですぐ終わってしまいました。それを見て私は、
「止められるまで答えるのをやめない。話すことがなかったら逆に審査員に質問する。」
という意気込みで臨みました。
結果、審査員の方に興味を持っていただいたのか、平均の倍の数の質問を受けることになり、最優秀賞をいただくことができました。
運を味方につけるには
まとめて振り返ると「運」という要素はあらゆる面に影響し、勝負にはつきものだと感じます。運は敵にも味方にもなり得ます。例えば、審査員が変わるだけで結果は大きく異なってしまいます。
しかし勝負という点においては、運は平等に不平等であると私は考えます。運がずっと敵であり続けるとは考えにくい。だからこそ、1回と言わず、何度も挑戦し続けることが運を味方につける一番の秘訣ではないでしょうか。一回の結果で一喜一憂せず、磨きつづけたその先に上級スピーチの扉が開かれると思います。
真に「良い英語のスピーチをするには」
初級編の終わりで、テンプレートから脱却することについて説明しました。上級者が取り組むべきは、その先にあります。
良い英語のスピーチをするには、用意された型を着るのではなく、
自分の体験を自分の言葉で立ち上げ、会場で“表現者”として成立すること。
自身の体験は、自分自身にしか語れないものです。それが英語でなくても、あなたにしか出来ないことをやれたならば、それは「良いスピーチ」だと言えるのではないしょうか。



