英検1級クラス担当講師がすすめる英語学習ツールとは

英語学習は何から始めたらよいのか

そのような疑問をよく耳にします。特に、現代は英語学習に関する情報が多く効果的な学習法が多く知れる一方、情報が多すぎて何が最も良いものなのかが分かりにくくなってもいます。しかし、ラジオが唯一の英語学習ツールと言っても過言ではない時代から、ラジオだけで英語が堪能になった学習者も一定数いらっしゃいます。このことからツールの選定にはあまり労力を割かなくても良いと感じており、「悩むより始める」がまず私からお伝えしたいことです。「読み・書き・聞く・話す」を鍛えられる学習するツールであれば、ある程度は何でも良いと考えます。むしろ重要なのはどういう目的意識で学習ツールを使えば良いのかということです。まずはツールを使う前段階についてお伝えしたいと思います。

英語ができるようになるという場合と英語が身に付かなかったという場合にはどんな差があるのか

一つは、学習センスではないかと考えます。ここでは才能というよりはむしろ、自然にとる行動が英語学習に向いているという観点で高い英語学習センスについて紐解いていきます。

洋楽を聴いただけで英語が得意になったという方に何名か出会ったことがあります。にわかに信じられなかったのですが、話を伺ってある共通点をみつけました。それは邦楽を何度か聴いていると歌詞を覚えられるタイプであるということです。多くの人が母語でも歌詞カードを読んで覚えそうな曲でも、何度か聞いている内にカードを見ずとも一緒に口ずさんで歌っているということでした。洋楽でも似たようなことが徐々にできるようになっていったと話されていました。そのうち歌詞がどんな意味なのかを辞書で調べて英語も上達していったと。

さて、話をラジオに戻します。洋楽の歌詞と同様にラジオを聴いてすぐに繰り返して声に出すようにできる人は上達の見込みがあることが伺えます。私の生徒さんの中にも相手に会話練習をしてみても「こう言ったら良いよ」という指導で、ただ頷くだけの生徒さんととりあえず真似をする人に分かれます。経験から、後者の方が習った英語を身につけられています。このような意識で学習ツールを駆使しすることが、英語上達の道ではないかと思います。

おすすめ英語学習ツール

1. 英語の辞書

まず英和辞典からですが、例文の多いものを選んでください。

例文の豊富さは学習者にとって特に重要で、語彙を豊富に載せるか例文を載せるかのバランスは出版社で大きく異なります。

学研のアンカーという辞書のシリーズですと、例文を豊富さを一つの売りにしております。逆に、電子辞書にも多く入っているジーニアスは語彙が豊富な辞書で、用例も文法がわかる人が読めば理解できるような必要最低限のことが書かれております。英語学習者として求めるのはやはり、例文の多いアンカーなどの辞書が良いと思います。(ジーニアスさんすみません。)

その理由は、例文を参考にして自分のものにしやすいからです。ここ私からのアドバイスは、例文はただ覚えるだけでも効果が高いですが、自分の出来事に置き換えるとより良いということです。1977年のトロント大学の研究では、自己に関連付けたものの方が記憶に残りやすいということが言われています。

また、例文を見るようにアドバイスをしても例文を1つか二つほど見て満足してしまわないように注意すると、上達が早いと実感しております。辞書引くのは意外と楽しいもので、気がついたら例文の中に見つかる単語をまた調べるのもおすすめです。私はこれを辞書サーフィンと呼んでいます。

次に和英辞典についてです。雑な言い方に聞こえるかもしれませんが、和英辞典については基本的に何でも良いです。和英辞典に求めるものは、例文の豊富さより、一つの単語における言葉のニュアンスです。例えば「まわる」を引いてみますと、turn, spin, revolve, rotate, go around など様々な英語が出てきます。これらはどれも同じ意味ではありませんが、日本語にすると「まわる」になります。回転寿司のお寿司は、revolveはしてもspinはしていません。(もしかしたら、spinするタイプの新しいビジネスモデルが生まれるかもしれませんが・・・。)

これらの違いは英和辞典での例文でも分かることです。そのため私は、和英辞典はニュアンスの違いの入り口まで案内するのが役目だと考えます。つまり日本語で1単語を調べるとより多様な英単語を紹介してくれる辞書が良い和英辞書です。それを出版社も意識されているのか、和英辞典にはページの最後の方には付録がついており、地名・人名の特集だったり会話の例文集であったりと内容は様々です。書店で実際に手に取られて、好きな付録で購入を決めても良いと思います。

そして最後に英語辞典、いわゆる英英辞典です。英語の実力ですと、英検2級以上・TOEIC600点以上の人の挑戦をおすすめしたいのが、ちょうど私たちが国語辞典で言葉の意味を知るように、英語辞典では英語で英語の説明がなされています。英語辞典は、難易度が易しい順に大きく分けて①Learners’ Dictionary ②Advanced Learners’ Dictionary ③Dictionary に分かれています。Learners’ とは「学習者の」ということですので非ネイティブの英語学習者用ということになります。数ある英語辞書の中でCollins の辞書は定義が完全な一文になっているので、初めて英語辞書を手に取られるのであればこれをお勧めいたします。さて、英語辞典の最大の魅力ですが、それは何と言っても英語の解像度を上げてくれることです。私が高校・大学時代で一番引いた辞書は英語辞典ですが、実際にネイティブと話したり映画を見て生じた疑問のほとんどを解消してくれましたし、英語辞典は英単語の意味をわかりやすく説明しているので、英語辞典の定義を土台にして学習をすれば特定の単語がパッとでなくてもネイティブとの会話で伝えたいことが伝えやすくなりました。英和と和英を使いこなしていく延長線上に、こんな神ツールが使えるようになるのが辞書を英語学習ツールとして使っていく上で最大のメリットになります。その上、コストパフォーマンスがこれ以上ないくらい良いです。しかし、かさばります・・・。

電子辞書より紙の辞書

私は電子辞書より紙の辞書派です。その理由は効率の良さにあります。確かに電子辞書は目当ての単語に辿り着くまでは早いです。ところが例文などを読んでいく読み物として捉えた時、圧倒的に表示領域が小さくかえって時間がかかってしまいます。紙の辞書は一度引けば例文を見渡せます。深く学習するのであれば、紙の辞書の方がメリットが大きいです。最近ではタブレットなど表示領域も広く、早く調べられるものもありますが、タブレットには辞書以外の役目を果たしてもらった方が良いのではないかと考えます。電子辞書やタブレットは上級者になりますと、パッと見れば済む場面も増えますから、使い勝手のいいツールになります。

2.録音機器

これは自身の発音をチェックするために使います。ほとんどの人にとっておそらく盲点なのが、自分の発音は自分でチェックして直せます。前提として自分が真似したい発音があることですが、想像以上に自分の発音はお手本とは程遠く、そのギャップを埋めることは録音機器を使えば意外に簡単にできます。私自身、オーストラリアの高校に10ヶ月ほどいましたが、最初の半年ほどは授業で(日本人は私一人で他は現地の高校生)、「アメリカ人みたい。」と言われました。しかし気がついたら「オーストラリア人みたい。」と言われましたが、それがどういうことか分からないまま帰国し、身内から「オーストラリア訛りがすごい」と言われました。そんなはずはないと、録音して自分の英語を聞いてみると見事なほどにオーストラリアのアクセントになっていました。要するに、自分の音のことは普段は無自覚で、録音機器はそれを自覚させるツールであるということです。私は帰国後、録音機器を使い3ヶ月ほどで自分の好きなアクセントに矯正することができました。

3. メモ帳

普段何気なく口にする、耳にする言葉を英語で表現するにはどうしたら良いのかを考える癖をつけて、気になったらそれをメモする。それだけです。読み返しながら、英語で独り言をいうのも良いトレーニングになります。

4. AI

今回はChatGPT(無料版でも可) https://chatgpt.com についてお話しいたします。

上記のサイトにアクセスしますと、すぐにチャット画面になります。どうやらChatGPTと検索しても、目当てにページが一番上にこなくて使えないという方がいらっしゃるようなのでご注意ください。

さて様々な使い方ができるのがChatGPTですが、実際にやってみた内容をまとめました。

太字:質問者 (私)

細字:GPT

育ちの良い小学5年生のアメリカ人として、質問に答えて僕と会話をしてください。ただし返答は全て英語でお願いします。それぞれの文章には( )で日本語訳をつけてください。

Of course! I’ll answer as a well-mannered American fifth grader, in English, and I’ll add a Japanese translation in ( ) after each sentence.

Please go ahead and ask me your questions! (どうぞ質問してください!)

今日は学校で何したの?

Today at school, we had a science experiment about plants and how they grow. (今日は学校で植物の成長についての科学実験をしました。)

We also had a math quiz, but it wasn’t too hard. (それから算数の小テストもありましたが、そんなに難しくなかったです。)

At recess, I played soccer with friends. (休み時間には友達とサッカーをしました。)

It was a really fun day! (とても楽しい一日でした!)

Would you like to hear more about the science experiment? (科学実験についてもっと聞きたいですか?)

何か実際に育ててみたの?実験で分かったことに興味があるな。それから、算数では今どんな計算をしているの?

Yes! We planted sunflower seeds in little cups with soil, and we are going to watch them grow over the next few weeks. (はい!小さなカップに土を入れてヒマワリの種を植えました。そしてこれから数週間かけて成長を観察する予定です。)

We learned that plants need sunlight, water, and air to grow strong. (植物は強く育つために日光と水と空気が必要だということが分かりました。)

In math, we are learning how to divide fractions. (算数では分数の割り算を習っています。)

At first, it seemed really confusing, but my teacher showed us an easy trick! (最初はすごくややこしかったけど、先生が簡単なコツを教えてくれました!)

You just flip the second fraction and multiply. (2つ目の分数をひっくり返して掛け算すればいいんです。)

Do you like math or science better? (あなたは算数と理科、どちらの方が好きですか?)

分数の計算は僕も好きだね。僕は円周率も3.14でじゃなくて22/7で計算する方が好きだね。誰もやってないけど、教科書にはちゃんと書いてあるんだ。

Wow, that’s really cool! (わあ、それは本当にかっこいいですね!)

I didn’t know you could use 22/7 instead of 3.14 for pi! (円周率に3.14の代わりに22/7を使えるなんて知りませんでした!)

It’s awesome that you noticed it in your textbook and actually use it. (教科書でちゃんと見つけて、それを実際に使っているのはすごいと思います。)

I think using fractions like 22/7 makes it feel more exact sometimes. (22/7みたいな分数を使うと、もっと正確に感じることもありますね。)

You must be really good at math! (あなたはきっと算数がとても得意なんですね!)

What’s your favorite kind of math problem? (どんな種類の算数の問題が一番好きですか?)

僕は今水の中の食塩が何%で別の濃度の食塩水と混ぜたらどうなるかをやってるよ。楽しいね。でも、僕は計算は速くないし、文章を読んだり書いたりする国語の方が好きだな。

That sounds really interesting! (それはとても面白そうですね!)

Mixing different saltwater solutions and figuring out the new concentration sounds like a fun challenge. (いろいろな濃度の食塩水を混ぜて、新しい濃度を計算するのは楽しそうなチャレンジですね。)

It’s okay if you’re not super fast at math — what’s important is that you enjoy thinking carefully. (算数がすごく速くなくても大丈夫ですよ。大事なのは、しっかり考えるのを楽しむことです。)

And it’s so cool that you like reading and writing! (それに、読んだり書いたりするのが好きなのはとてもかっこいいことです!)

I like reading stories too, especially funny ones. (僕もお話を読むのが好きです。特に面白い話が好きです。)

What kind of books or stories do you like to read? (どんな本やお話を読むのが好きですか?)

その他に頼むとやってくれること

  • 今わたしがした質問を全て英語にしてください。
  • (会話モードに切り替えてから)この英会話を再現したいのでわたしの練習相手になってください。わたしから質問します。
  • 今のやりとりからCEFR A2レベルの単語や熟語をピックアップして表にしてください。

いかがでしょうか。 AIを駆使すれば、自身が英語を話す状況や内容で英語を話す練習ができます。またChatGPTに自分役を演じてもらい(職業、年齢、趣味などを自分と同じにする)話してもらうことで、より自分に関連した内容を学習に取り入れることもできます。

また、ChatGPTには音声のボタンがついており、押すとそこからは会話することが可能です。ChatGPTにはスマホアプリもあります。どのアプリか分からない人は、ChatGPTのページから飛べるので是非お試しください。注意点としましては、私の経験則からになりますが教えてもらって分かった気になってしまうことは学習において一番の障害だと思います。学習する際には、得たい知識を多少苦労しながら獲得した方が良いと思います。人の脳は「コストのかかる選択」を避ける傾向があることを示すという研究(2018年カナダのブリティッシュコロンビア大学の研究)もあります。私は、そんなサボリジニーに何かインプットするためには、インプットをするのに必要なエネルギーよりその情報に辿り着く方がエネルギーを必要とする状況を作り出した方が良いのではと思います。「毎朝500個の単語を見せられて、たまったもんじゃない。覚えたら見なくて済むじゃん。」と脳に信じさせるのです。

最後に

英語学習ツールは世の中にあふれています。あまり多くの情報に振り回されないのも大切だと思います。学習参考書をやり切る前にコロコロ変えてしまうようなことは避けていただきたいです。また、スマホやパソコンなどと同様にAIのツールなどは一つで様々なことができてしまいます。用途を絞れないからこそ、注意や目的が散漫になってしまい、英語とは無関係なことをついやってしまうということもあります。ツールばかりにこだわって本来の学習とは違う方向に進むのは本末転倒ですので、ツール選びよりも自発的に学びに行く姿勢と継続することが大切なのではないかと思います。